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胃の働きは、拡張して飲み込んだ食物をいったん貯えながら、胃酸を分泌して消化し、少しずつ十二指腸から小腸に送り出す仕組みになっています。これには、人が意識しても調節することのできない自律神経や、消化管ホルモンと呼ばれる物質の分泌による胃蠕動の調整を受けたり、食べ物の成分(糖質や脂質)によっても胃の蠕動にブレーキがかかるなど、大変複雑なメカニズムが絡み合って影響しています。
機能性胃腸症では、ストレスなどによる緊張状態が自律神経(副交感神経=迷走神経)の働きを抑えて胃の蠕動運動が低下したり、胃壁を保護する粘液の分泌低下や胃の知覚過敏、胃の拡張能の低下などが、胃もたれや不快感、早期飽満感を引き起こすものと考えられています。
上腹部の症状(胃の痛み?もたれ?胃部の不快感)は、胃?十二指腸潰瘍や胃癌などの他に、胆嚢や膵臓の病気が原因となることがあり、胃カメラや超音波検査などをまず受ける必要があります。また近年では慢性胃炎?胃潰瘍の原因であるピロリ菌を除菌すると症状が改善することもあり、ピロリ菌感染の確認も有用です。ピロリ菌感染については、内視鏡検査に際して胃粘膜を直接採取して確認したり、糞便検査でチェックすることができます。(*ピロリ菌除菌の保険適応は胃十二指腸潰瘍のみで、慢性胃炎での抗生物質投与は現在のところ認められていません。)
機能性胃腸症の治療は、まずは生活習慣の見直しと改善が第一です。胃の機能を整えるためには、食道がん
過労?ストレスを避け十分な睡眠が必要です。緊張状態は胃の運動を低下させ、胃酸分泌を亢進させることになります。また朝食は抜かないようにしましょう。朝、胃が重くて食事を受け付けないという場合には、就寝前3時間は食事を摂らないでください。仕事で遅くなるという場合には、おにぎりなどで軽く済ませ、深夜の空腹時には豆乳やホットミルクなどに少量の砂糖を加えるのもよいでしょう。食事内容としては甘いもの?油もの?刺激物を控え、一口30回よく噛んで食べるようにすることがよいでしょう。嗜好品では、タバコ?アルコール?コーヒー?チョコレートなどが胃蠕動を低下させるものとして注意が必要です。
生活習慣を改善しても症状の改善が得られない場合、現代医学的には薬物治療として胃酸分泌を抑える制酸剤?胃粘膜保護剤?消化管機能改善薬がいくつか併用されます。またストレスの関与や精神的要因として不安?緊張状態の強い場合には、抗不安薬も使用されることがあります。このような現代医学的治療は、症状を一時抑えることが出来ることもありますが、あまり改善の得られないこともあります。とくにストレスが関与することが多いために、結局は症状や薬と長く付き合うことになってしまうこともあります。胃腸の“機能”を整えるのはどちらかと言うと後述するように、心身の状態を総合的に捉える漢方治療の方がお勧めです。
五臓という考えを理解するには、五行説という経験と観察による東洋思想(哲学)を知っている必要があります。以下に簡単にこの五行説についてまとめてみます。
五行説では、「この世界は“木?火?土?金?水”の5つの要素から成り立っていて、これらのシステム同士の相互作用によって機能している」と捉えます。システムの相互作用とはまず、“木”が燃えて“火”、“火”は燃え尽きて灰すなわち“土”、“土”は固まって“金”(岩)となり、“金”は“水”を集め、“水”はまた“木”に入る???というような互いに生み出し合う関係を見ます。(これを?相生関係?と言います)。また“木”は“土”を痩せさせ、“火”は“金”を溶かし、“土”は“水”を吸い、“金”は“木”を枯らし、“水”は“火”を消すというように、互いに抑制し合う関係があります(これを?相克関係?と言います)。このように東洋思想では、システムの有機的なつながりを重視し、物事を全体的に捉えるという特徴があります。
この五行説に基づく五臓論では、人体について肝(木)?心(火)?脾(土)?肺(金)?腎(水)という5つの内臓の機能単位で捉えます。そして、それぞれの機能は、怒(肝)?喜(心)?思(脾)?悲(肺)?恐(腎)という精神活動と関連しているとしています。たとえば“怒り”は“血の巡りを悪く”し、“眼精疲労”や“筋肉の凝りやひきつれ”の原因となります。東洋医学で言う“肝”とは、精神活動とともに“血液”や “目”?“筋肉”なども含めて考えています。つまり現代医学でいう“肝臓”という臓器だけを指すものではありません。fukashi
心?脾?肺?腎も同様で、“消化吸収システム”を担っているのは“脾”です。
機能性胃腸症を漢方で考えるには、このようなシステム論がとても役に立ちます。胃腸の機能に深く関わるのは、“肝”と“脾”です。消化器の中心は東洋医学的には“脾”であり、まずは脾を整えることを考えますが、胃腸の機能を悪化させる要因として“ストレス”の関与は大きいもので、ここに“肝”すなわち“怒”が関わってきます。 ストレスから出る“怒”は“肝”の失調を来し、相克の関係から“肝”の昂ぶりは“脾”の衰えを招くことになります。つまり“肝”を抑える治療(これを抑肝と言います)や“脾”をたすける治療(これを“扶脾”と言います)が有効で、これらの治療を併せて「抑肝扶脾」と言います。
漢方ではこのように心身の状態を総合的に捉えますので、胃や腸だけを治療対象とするではなく、ストレスに起因する身体の反応にも目を配り対応することになります。これが、漢方が心身一如の医学と言われるゆえんです。この点で、分析的?科学的で器官ごとに的を絞ってアプローチする医療体系である現代医学とは、異なった治療体系となっています。さらに漢方治療では“脾”=消化機能を整えることで、生体エネルギーである“気”(特に飲食物からの“水穀の気”と言います)が補い養われ、意欲の改善や疲労回復へとつながります。漢方薬は長く継続するイメージがありますが、症状の改善とともに支えながら身体作りを目指すということがその背景にあるのです。